編み物
母が残してくれた毛糸。
手先が器用な母でさえ、鉤針だろうが棒針だろうが頑として形にならなかった毛糸。
その毛糸は手触りだけは良いものの、隙あらば針から逃げていく。
腹が立つ程強情な毛糸。
以前、指位の太さの棒針で強引に編み始めたメリヤス編みは、その針が必要になり、抜いてしまった。
悪くはない編目だったのだが、針という拘束が無くなったが最後、一気にほどけて収集がつかなくなった。
もう一度その毛糸を玉にする。
玉から今度は糸を二本から四本に合わせて編んでみた。
あら、いけるんじゃない?
そのまま順調に編む。
しかーし!
甘くなかった。
巻いていた毛糸がほつれた。
なるべく切りたくない。
(結び目が目立つから)
諦めて糸を切る。
切ってはほどき、
切ってはほどき。
ヒステリックになりながら。
情けない位の結び目の数。
ほどけきったので、玉に巻きなおす。
再び編み始めるものの、
この世にはアドバイスしてくれる母は居ない。
サイズを間違えてとんでもなく大きく出来上がりそうなスカートもどき。
へたしたら、短くてどうしようもないかも。
でも、とりあえずは作り上げてみよう。
ほどいて作り直すにしてもね。
この編み物は自分の人生のミニチュアみたいだから。
母からやっと抜け出せる儀式なのかもしれない。